TEP Story Archives : 創業2年で電動バイクの日本最大手メーカーに躍進

テラモーターズ株式会社 徳重 徹 氏
テラモーターズ㈱代表取締役/TEPアントレプレナー会員

100年に1度の革命期を牽引

2011年、大企業がしのぎを削るEVの二輪車市場で、創業2年のベンチャー企業が国内最大手に躍り出た。製造・販売を手がけるのはテラモーターズ。社員12人のベンチャー企業だ。

EVは2020年に10兆円市場になるといわれている超成長産業だ。環境負荷が少ないことから、各国政府が普及を後押ししている。電動バイクも例外ではなく、国内市場は5年で2倍の規模に広がった。

「今100年に1度の自動車革命が起こっている。ベンチャーの主戦場だ」と語るのは、テラモーターズ株式会社・代表取締役社長の徳重徹氏。大学を卒業後、国内生命保険会社に勤務。サラリーマンで終わる人生を嫌い、渡米してMBAを取得。シリコンバレーでインキュベーション企業の代表をつとめ、多くのEVベンチャー企業の誕生を目撃してきた。

「EVはベンチャーのほうが強い」と徳重氏は語る。ガソリン車と比べてEVは4分の1の部品で作ることができ、大きな製造ラインを必要としない。自動車業界は産業構造がメーカー系列によって限られる垂直統合型であったが、EVは必要な部品を様々なメーカーから取り寄せ、組み立てることができる。ベンチャーの参入チャンスは十分にある。逆に、大企業はガソリン車の巨大な製造ラインが重荷となり、機敏な製品開発や資本投入ができていない。ベンチャー企業がひしめく超成長産業では、スピード不足は命取りだ。

テラモーターズが目指すのは「4倍速の経営」。「2倍の質で2倍働く。圧倒的なスピード感で市場を引っ張りたい」と徳重氏は話す。

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<< 環境にやさしい電動バイクを低価格で実現したテラモーターズの「SEED」

狙いはアジア市場

徳重氏にはビジョンがある。「日本発の世界ベンチャーをつくること」だ。シリコンバレーでベンチャー企業の支援をする中で、日本企業の少なさに危機感をおぼえたという。

2009年。当時黎明期であったGoogleが世界を席巻していた。徳重氏は日本を見て悔しさを感じた。「日本ではグローバル企業といえば大企業。しかし海外では世界で活躍するベンチャー企業があたりまえに存在する。自分にチャレンジしてみたい」と起業を決意した。2年後に獲得した国内最大手の看板にも、「国内は通過点に過ぎない」と目線は先だ。

今の狙いはアジア市場だ。世界の二輪車市場の8割を占めるアジア。ガソリンバイクが広く普及しており、毎日大通りが埋め尽くされる。二輪車が引き起こす排ガスや騒音は各国共通の課題だ。

EVは政府が後押しする解決策のひとつだ。特に中国市場での電動バイクの伸びはすさまじく、2000年に27万台だった販売台数が、現在では2000万台。参入企業は数十社にのぼり熾烈な市場競争が行われている。

「アジア市場は、品質、価格とも最高のものが求められる。意思決定のスピードは国内よりはるかに早い」と語る徳重氏。2011年夏にはベトナムに駐在員を派遣。東南アジアの市場開拓も急ピッチで進めている。

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<< 日本で企画し中国工場(写真)で製造、さらに今後ベトナム工場が稼働すると生産能力は5倍増となる

先輩経営者のネットワークが生んだ「信用」

今や飛ぶ鳥を落とす勢いの徳重氏だが、起業当初は「バイク」という商品の特殊性に悩まされた。多くの販売店がすでに大手企業とネットワークを持っており、追い返されることもしばしば。知名度もなく、話すら聞いてもらえない状況にあった中で挑戦を支えたのは、「信用のネットワークだった」と振り返る。

徳重氏の信用を引き受けたのは、シリコンバレー在住のころからの先輩経営者であり盟友のTXアントレプレナーパートナーズ代表、村井勝氏。現在はテラモーターズの株主であり、定期的に助言するよき理解者だ。

「社会的に信用のある方から支援を受けることで、会社への信用が生まれた。株主名簿に村井氏の名前があるだけで、相手の反応が変わる」と、徳重氏はその効果を何度も実感した。実際に村井氏からの紹介で大きな事業に繋がったケースもあった。

村井氏は、「彼とはビジョンを共有し、信頼関係を構築したからこそ実行力のある支援が行えている」と話す。応援団はさらに拡大し、2011年末には3億2800万円もの資金調達に成功。株主には元グーグル日本法人社長の辻野晃一郎氏や元ソニー会長の出井伸之氏らの名も。
「信用が信用を呼ぶ。今では10億円の追加調達も難しくないはず」と徳重氏は断言する。

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<< 信用のネットワークを事業拡大につなげた徳重 徹 代表取締役

日本発の世界ベンチャーに向けて

世界を狙うベンチャー企業として加速するテラモーターズ。驚くことに、社員の平均年齢は20代の前半。海外市場の責任者に抜擢されたのは社会人1年目だ。

「ここで1年働けば、大企業で働く5年分の経験ができる」と語る徳重氏。人材教育は最も力をいれている戦略だ。若い人材にまかせることで、自身は会社を次のステージに向かわせる戦略作りや商品開発に集中する。役割を明確にすることで、経営のスピードはさらに加速する。

社内を少数先鋭の若い人材で揃え、社外から経験豊富な顧問、株主の知恵や資本を借りる。世代を超えたオールジャパンの体制が構築されたテラモーターズ。日本発の世界ベンチャーに向けた挑戦は続いている。

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<< コンパクトなオフィスに若き頭脳が集まるテラモーターズの社内風景